東北大学加齢医学研究所 川島 隆太 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

「学校の勉強」や「受験勉強」をすることには、大きな意味がある

聞き手:栗山 潔 四谷学院教務部教務部長(東京大学理学部数学科卒)

聞き手:栗山 潔
四谷学院教務部教務部長
(東京大学理学部数学科卒)

毎日の「学校の勉強」や志望大学に合格するための「受験勉強」。時にはやる気が出ないことや、部活との両立に悩むこともあるが、がんばって取り組むことに意味はあるのか。将来の役に立つのか。
「脳」のしくみを追求し、研究成果を実社会へ応用する東北大学の川島隆太教授にお話をうかがった。

東北大学 加齢医学研究所 川島隆太先生

東北大学
加齢医学研究所 所長
川島隆太先生

科学的な視点から
人間の「脳」や「心」を追究する

――まずは、川島先生のご研究内容について教えてください。先生が取り組んでいらっしゃる「脳機能開発」は、どのようなことをテーマにした研究なのでしょうか?

川島簡単に言うと、「何をすると脳のどこがどう働くか」ということを画像化する研究です。主に使っているのはMRIという装置で、MRIの中で何かを考えたり体を動かしたりすると、脳のどこがどう働くかを画像にとることができます。白紙の地図に例えると、「人間の脳の何丁目何番地にどういう働きがあるか」ということを逐一調べていくようなイメージですね。私たちは、「心」は「脳」の働きを積み重ねてできたものと考えています。最終的には「人間の心って何だ?」ということを科学的に調べたい。これが私たちの目指す基礎研究のゴールです。

それから、この研究を社会に応用するという応用研究も行っています。子どもから高齢者までを対象として、「生活の質を上げてより健やかな生活を手に入れるためには何をしたらいいのか」ということを、脳の科学の観点から提案しています。例えば、認知症の方々に読み書き計算を通じて「作動記憶」という記憶力のトレーニングをすることで、薬では治らなかった症状を治すことができる、という大きな発見をしました。さらにこれを健康な人たちでもできるようにしようということで、任天堂でゲームソフトを作って世の中に出したりもしました。

文系・理系の枠を超え、
たくさんの学問分野が協力する

――基礎研究の方からより具体的に伺います。高校生の生物の教科書などに、脳の周りに耳や目や手足の絵が描いてあって、脳のココが体のココとつながっている、ということを示す絵がありますが、これは20世紀の研究ですよね。かつての研究と今の研究の一番大きな違いは、MRIという道具が生まれたことですか?

川島1990年以前の脳研究の主役は動物実験でした。サルを使えばいい方で、多くはネズミや猫の脳を調べて、それで人間の脳の働きまで推測する時代がずっと続いていました。1990年を過ぎてからの大きなブレイクスルーは、MRIによって健康な人間を対象として脳の計測ができるようになったことです。

MRIの元となったのは、1920年代から化学の計測で使われていて当時NMR(核磁気共鳴)と呼ばれていた分析技術です。これを人間に応用すれば人間の体内構造を画像化できるということから、医療への応用が始まりました。1980年代に日本人の小川誠二先生が、脳のMRI画像を超高速で撮ると、脳の機能の情報、具体的には血流の変化がわかるということを発見しました。それを今、私たちが技術として使っているのです。

――では人間の脳の働きについて、先生は今どのようなことを研究されていますか?

川島一言で言うのは非常に難しいですが、要は人間の心の研究ですから、私たちの思考や行動に関することを全部、研究のテーマにしています。例えば「自分を自分と認識しているのは脳のどこの部分か」ということも研究テーマにしていますし、「他者が何を考えているかをキャッチしているときの脳の働き」を調べる研究もしています。また、「どうやって他者にうまく情報を発信するか」ということも研究対象にしています。

心の働きのすべてが研究対象ですから、周辺分野の学問も全部関連してきます。うちの研究室には医学部・理学部出身者だけではなく、経済学部出身者や法学部出身者もいます。哲学や言語学、心理学出身の学生もいます。ありとあらゆる学問をベースにして、脳の研究をしているんです。

――先生の研究室には、「心」の研究に関心のある人がいろいろな方向から集まってきているんですね。先生が取り組まれている脳の問題・心の問題は、今までわからなかったことがどんどん解明されているフロンティア的な分野だと思うのですが、実際に「脳とはこういうものである」とか「心と脳の関係はこういうことである」など、脳について「わかった」という結論のようなものが出るのは何年先とお考えになりますか?

川島脳研究のスタートは、普通と違うおかしな行動を示す人を見つけ、彼らが亡くなったあとに脳を調べ、脳のある場所と行動の関係を知るというものでした。有名なのはブローカーが見つけた言葉を作り出すブローカー野と、ウェルニッケが見つけたウェルニッケ野。その後に脳と心の関係に大きく迫ったのが、ロボトミーの実験。この実験では、手術前後で、自分の心が他人のものと入れ替わったような感覚が起こるということが見つかりました。しかし、その後の研究はあまり大きく進みませんでした。当時は脳波計の技術だけしかなく、脳の中で何が起こっているかはかなり大雑把なことしかわからなかったのです。

1980年代に入ってようやく健康な人を対象に様々な心の働きと脳の関係を調べることができるようになると、脳に関してたくさんのことがわかるようになりました。ここでものすごくたくさんの知識が集約されたのですが、僕たち研究者の感覚としては未だにスタート地点近くにいる感覚しかありません。これが科学の宿命でもあるのですが、知れば知るほど知らなきゃいけない事実が増えてくる。「心を知る」というゴールにいつになったら辿り着けるかを考えると、ずっと同じ距離感が続いているというのが正直なところです。科学者はたいてい「脳について解明できるのはだいたい20~30年先」と答えますが、100年経っても200年経っても同じことを答え続けるんじゃないかと思っています。

学校の勉強は様々な「能力」を伸ばす

――それでは次に応用研究のお話ですが、作動記憶のトレーニングが認知症の改善に有効であるというのは、どのようにしてわかったのでしょうか?

川島これは、もともとは心理学の知識です。作動記憶というのは非常に重要な能力で、理解や推論、学習などを支えています。そのため受験生にとっても一番大事な能力ですし、人間が自分の生活を健やかに育むためにも欠かせない能力の基礎となっています。私たちが認知心理学の世界から注目したのは、この作動記憶の訓練を自分ができるギリギリの難しさで続けると、作動記憶を使っている様々な能力が一度に伸びるということです。

ここで基礎研究と応用研究の2本があるのですが、基礎研究では実際に作動記憶の訓練をやったときに人間の脳に何が起こるかということを調べます。結果として、1つは脳の前頭葉の体積が増え、もう1つは前頭葉から出ている神経線維の方向が変わったり線維の量が増えたりします。非常に広範な領域で、脳がつくり変わるんですね。学生に協力してもらった実験では、本当にいろいろな能力が伸びました。知能、クリエイティビティ、想像力、運動能力など、ものすごい多くの方向に転移効果があるんです。

応用研究の方は大きく2つの方向に分かれています。1つは、より身近なところで作動記憶トレーニングができないかという研究です。読み書き計算をする、つまり数や記号を扱うときは作動記憶を使っていますが、感覚としては脳に負荷がかかっていません。それにもかかわらず、脳計測をすると非常に強い負荷が前頭葉を含めていろいろなところにかかっていることを見つけたんです。ここでのゴールとしては、「子どもたちが学校で勉強することには意味がある」ということを証明することです。学校では常に新しいことを勉強しますから、ギリギリの難しさで読み書き計算を使った作動記憶トレーニングができていて、その結果、脳の可塑的な変化が副次的に起こり、さらにいろいろな能力が伸びる。それを証明したいと思っています。そしてもう1つの方向性が産学連携というやり方で、一番みなさんにわかりやすいところで言えば任天堂のゲームがそれです。作動記憶の訓練そのものを遊びながらやってもらえるモノを世の中に提供したわけです。

――単に作動記憶、ワーキングメモリーを働かせるだけの作業であっても、それが他のいろいろな能力を伸ばしていくんですね。

川島ただそれは、ギリギリの難しさでやらなければいけません。私たちは常にワーキングメモリーを使っています。でも、それをギリギリの難しさで使ってはいません。ギリギリの難しさで使うためには、何らかの道具立てが必要です。子どもたちは学校の勉強がまさにそれですから普通に勉強すればいいのですが、それ以外の人にとっては何らかの道具がいるということで、ゲームソフトを提案したり、読み書きのドリルを提案したりしたわけです。

――四谷学院には55段階個別指導システムというものがあります。このシステムでは、課題を小さなステップに分けて、1つの課題が終わったらその次の課題へと小さいステップを繰り返してやっていってもらうんですね。生徒の今の学力段階に応じた課題を与えて、それをクリアすれば自分のペースでどんどん前に進んでいくという考え方なんです。

川島それは僕が言ったものを具現化しているわけですよ。ギリギリの難しさの作動記憶訓練を続けるということになり得ていますから、良いシステムだと思います。

受験勉強は「脳の使い方」を鍛える

――先生の受験生時代のことをお聞かせください。

川島脳の研究をしたいという気持ちは、中学校の頃からずっともっていました。それを実現できるところを調べたら、当時は医学部しかなかったんですね。生命科学みたいな研究領域なんかなかったですから。僕は千葉の公立高校で、現役のときは勉強しなかったので箸にも棒にもかかりませんでした。それで予備校に1年間通って、そのときはもう本当に勉強ばっかりしていました。

――大学受験のための勉強と、研究のための勉強はもちろん質が違うと思いますが、その間に何らかの繋がりはありますか?

川島学生さんに協力してもらって脳の使い方を調べると、やっぱり受験時代にしっかり勉強した人の方が、脳の使い方が上手いんですよ。単に点がとれるだけじゃなくて、いろいろな面で認知的に発達しています。そうでない人たちは発達していません。それはやっぱり受験勉強という形の努力でも、「集中して努力した」っていうことが本人の身になっているんです。これは脳研究者としていろいろな学生を見ていて感じているところですね(笑)。

――先生の研究所には、理系文系関係なく「脳」と「心」に関心がある学生が集まってくるということですが、「こういう学生に来てほしい」というのはありますか?

川島あきらめないで前に進める人に来てほしいです。これはノーベル賞を受賞した山中先生も言っていましたが、サイエンティストというのはメスでサササッと華麗に切り開いてグイグイと前に進んでいるイメージかもしれませんが、実際そういう人はいません。みんな、道無き道を1歩1歩、鉈なたで木を割りながら少しずつ前に進んでいます。ときには、なかなか切れない木や岩があって挫折しそうになることもあります。そこであきらめちゃう人の方が多いのですが、それでもあきらめないで岩に向かって鉈を打ち続けられる人のみが、一流になれるんです。そういう、あきらめない人に入ってきてもらいたいですね。

「大学に入ること」がゴールではない

――それでは最後に、高校生へのメッセージをお願いします。

川島大学には本当に面白い学問や研究が山のようにあります。自分が知りたいと思っていることを知るきっかけは必ずあるので、それを見つけてほしいですね。そのためには「大学に入ること」自体がゴールではないという意識をもってほしいと思います。

――ありがとうございました。

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